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父の、心配そうな声で目が覚めた。
「大丈夫か、海星。すごい汗だぞ……」
ぼんやりとした意識のまま、真っ暗な辺りを見回す。
自室のベッドの上だ。やけにリアルな夢を見ていた。
「おい、海星? 本当に大丈夫か?」
反応のない僕に、父が再度尋ねる。
「ああ、うん。平気。暑くて寝苦しかっただけ」
笑いながら答えると、父はほっとしたように微笑んだ。
「そうか、もうだいぶ暑くなってきたもんな。起こして悪かった。おやすみ」
「おやすみ」
父が部屋から出てから、ため息を吐く。
とてもじゃないが、寝る気になんてなれなかった。
もうずっと、夢に出てくることなんてなかったのに。
今更、鮮明に思い出すことになるとは思わなかった。
バス停での幻覚。
さっき見た、夢。
「よろしくね」と微笑む少女に、僕は何を返しただろうか。
思い出したくない。
忘れてしまいたい。
思い出してしまう。
忘れてはいけない。
息を、深く吸う。
苦しくはない。
でも、なのに、すごく、
つらい。
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