海の星

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 食パンをかじる。 「海星、眠そうね。どうしたの?」 「ん、あんま寝れてなくて。父さんは?」  さりげなく、話題を変える。  心配性の母に色々聞かれるのは面倒くさい。何より、もう何も思い出したくない。 「とっくに仕事に行ったわ。昨日もあんなに遅くに帰ってきたのに、大変よね……」  昨日の夜中。正しくは、今日。  父はうなされていた僕を心配してくれていた。父自身も仕事に疲れ、すぐにでも休みたいところだっただろう。  それでも、僕のことを気にかけてくれていた。  母のことを心配性だと感じるのも、母が僕のことを大事に思ってくれていることの表れだろう。  僕は、愛されている。  それはとても幸せなことだし、嬉しく感じる。  でも、時々、その愛をうっとうしく感じてしまう。  そして、その感情は、愛されたくても愛されない人たちへの裏切りであることもわかっている。  あんな夢を見た後だからだろうか。普段はこんなこと、考えないようにしているのに。 「ご馳走様でした」  空になったお皿とカップを持って、立ち上がる。  台所へ向かう僕の後ろから、母の声が追いかけてくる。 「そういえば、今年はお祭り、あるみたいよ」 「は?」  あまりにも突然の言葉に、思わず聞き返してしまう。 「お盆のお祭り。去年? 一昨年? 何か言ってなかったっけ」  小首を傾げる母。 「ああ……」  曖昧な返事をする僕に構わず、母は続ける。 「あのお祭りって、二、三年に一度しかやらないみたい。前は、色々私が頼んじゃったせいでゆっくり見に行けなかっただろうし、友達と行っておいでよ」  二、三年に一度のお祭り。  それは。 「考えておくよ。じゃ、遅れるから。行ってきます」  逃げるように玄関に向かう。  自分でもわかるほどに、声が震えてしまった。失敗した。 「海星!」  後ろから、母が追いかけてくる。  靴を履いていた手を、止める。 「何?」  振り返らず、聞く。なるべく明るく、軽く。今までだって、誤魔化してきた。大丈夫。 「大丈夫?」  心配そうに聞いてくる母にバレないように、そっとため息を吐き、振り返る。 「大丈夫だよ。あんまり心配ばっかりしてるとはげるよ? 行ってきます」  にっこり笑って、軽く言うと、母は心底ほっとしたように笑った。
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