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彼女は、明るい子だった。
休み時間には必ず、二、三人の女子に囲まれていたし、彼女自身もよく話し、よく笑った。
とても、あの時と同じ人物には思えなかった。
「きえたい」と呟いたあの子は、いないのだと、そう思った。
だから、もう一度あのバス停で、少女に会うことがなければ、僕はあの日のことを忘れていたかも知れない。
忘れられていれば、どんなによかっただろう。
学校生活が始まって、一週間。
慣れ始めの頃だ。
その日も僕は、物珍しさからの質問攻めに疲れ切っていた。
HRが始まるまでの短い時間を机に突っ伏して過ごしていた。
「カイくん、大丈夫? 体調不良?」
と、隣から声をかけられた。
彼女は、時々こうして話しかけてくる。特に何かを深く話すわけではなく、一言二言、他愛ない会話をして終わり。
「大丈夫です。少し、話し疲れただけで」
力なく答えると、少女は不満気に言った。
「敬語じゃなくていいって言ってるのに……。皆、転校生が珍しいから、気になっちゃうんだろうね。もうじきおさまるだろうし、それまで頑張れ!」
「うん」
頷くと、丁度担任が入って来て、HRが始まった。
人と話すのは、疲れる。
『どこから来たの?』
『どうして転校することになったの?』
『何が好き? 何が嫌い?』
色んな人から同じような内容のことばかり聞かれ、うんざりした。
愛想笑いをし続けるのにも疲れた。
その点、彼女は何も聞いてこない。
本当にどうだってよくて、何気なくて、気楽でいい。
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