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この世界にはね。
誰でも使える「復活の呪文」というものがあったの。どんなものでも復活させることができる呪文。
今じゃ誰も信じてなくて、使う人を見たことがないけどね。
でも、その呪文は確かにあるわ。
ほぉら。目をそんなにキラキラさせて。
ちょっとお待ちなさいな。
確かにそんな呪文はあったわ。誰でも使えてもいた。
でも、その呪文には決まった形がなかったのよ。つまり、誰かに伝える術を持たなかったってこと。
残念ね。
私、あなたに教えてあげることができないわ。
ふふふっ。
なあんてね。
ちゃんと詳しく教えてあげるわよ。
その呪文はね。文字に起こすことができないの。
それにね。使うひとによっても違ってくるわ。誰が使うか。誰に使うか。どんな場面で使うか。全部違うと思うわよ。だから、私からは伝えられないの。
それに、どれだけの想いを込めるかで成功率も変わってくるかもね。
こらこら、すぐ試そうとしないの。
どうせ失敗するんだから。
マア、シッパイシタラワタシガタベテアゲルンダケド
なあに? 変な顔をして。
ほら、続きを聞きなさいな。
復活の呪文を使うときに忘れちゃいけないのが「何に」使うか。
誰に使いたい? 恋人? 親? 友人? それとも見ず知らずの可哀想に思ったその他大勢の他人?
どちらを助けますか? っていう質問、よくあるでしょう。復活の呪文があれば両方助けられちゃうわね。本人にその気があれば。
「両方助けたい」が「両方助けなくてもいい」に変わらなきゃいいけど。ほんとなら、復活なんてできないのよ。この呪文があるからって甘えてると、復活できなかったとき何も戻って来ないわよ?
私だったら使わない。使えても、使わない。
復活の呪文が使える対象は物体にも適応されるらしいわ。よかったわね、壊し放題よ?
ペット? 折れた剣? 砕けた盾? 親から継いだ家? それとも愛しい人とお揃いの指輪?
どんな物だってすぐに直るわよ?
だって、復活の呪文なんだから。
だからペットを殴っていいのよ。一番重要な場面で役立たずの剣も盾も飾り続けなさい。中身が空っぽの家に居場所はあるの? お揃いをつける人の心はどこに行っちゃった?
ほら。物だけ復活しても何かが欠けてる。物に添えられた時間や思い出、絆なんてものは元通りには戻らない。
だって、呪文を唱えた人の思いは「物」に向けられているんだもの。それ以外は壊れたままよ。
ソレニシテモノドガカワクワネ
あとね。この呪文を唱えても復活しないものがあるの。
それは、命を失ったもの。
復活の呪文なのに変だって?
そうよ。復活の呪文だから、命を失ったものには効果がないの。
復活は甦りや蘇りの呪文じゃないわ。体は元に戻っても命は戻ってこない。言ったでしょ? 命という奇跡は二度起きないの。
覚えておいてね。息を吹き返せるのは、まだ命が続いているものだけ。
復活の呪文で復活できるものは、始めから物だったものと、まだ死にきっていない者だけ。
失敗しちゃうとゾンビになっちゃう。
アレハ、ソウ、トテモマズイ
クライツクナライキテイルホウガイイ
ゾンビよ? ゾンビ。
さっきまでのあなたみたいな、生きていることにすがりついてる死にたがり。あれって絶対自分は生きてるって信じているわね。
「復活の呪文」を受けたんだから、自分は復活している。そう思っているんでしょう。
死んだことを受け止めきれていないんだわ。そういう子たちは。
自分は死んだ。そう素直に思える子はね。「復活の呪文」の声に応えないの。
死んだ後でそれに応えても、帰る場所がないって解っているのね。
ゾンビになんて、あんな姿になるなんてイヤだもの。
『かえっておいで』
『だいじょうぶ』
『まだまにあう』
ほら、聞こえてくるでしょう?
これが「復活の呪文」よ。
ゾンビみたいに死にそうな顔をした誰かさん。これはあなたを復活させるための呼び声よ。
聞いたことのある声でしょ? 知ってる人の声でしょ?
ほら、あなたが還ってくるのを待ってる人たちの呪文よ。応えてあげなさい。
いい加減、顔を上げてしゃんとしなさい。
笑って「ただいま」って言ってあげなさい。
「復活の呪文」があなたに届くくらい、この人たちはあなたのことを想ってくれているのよ。
ほら、復活の時間よ。
こんな真っ暗な夜に溺れていないで、
ニガサナイ
こんな冷たい闇を彷徨ってちゃいけないわ。
ハラガヘッタ
あなたは、今、復活できる。
復活できるのよ。
ニクダ、チダ、イキタエモノダ
あなたは、まだ。
生きているの。
そんな顔しないで。
まだ、復活できる。
生きている限り、何度だって復活できるのよ。忘れないで。
だから
「××××××」
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