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……俺は、逃げたかった。
目を塞ぎたかった。
あの日のトラウマから。
だから、高校に上がってから周りと関わるのをやめた。
そうすれば、何も起こらないと思って。
あの日のトラウマが、再び目の前で起こることはないと思って。
でも、なぜか周りとの関係を断ったとしても、俺に関わってくる奴がいた。
そいつとは全く面識がない。
高2に上がってから同じクラスになったが、あいつと関わることはなかった。
あいつが俺に視線を向ける素振りを見せることもなかったし、俺があいつに視線を送ることもなかった。
あいつは俺のことを認知していないのではないのかと錯覚するほど、あいつとの関わりは全くなかった。
それが、俺には居心地よかった。
学年で一番人気のあるあいつに、俺は勝手に偏見を抱いている。
それは、単純にクソな奴だということだ。
自分が一番だと調子に乗って、いろんな男どもをたらしていき、最終的に捨てる。
そんなイメージが、俺の中にはあった。
だから、そんな奴と関わらないで済むと思うと居心地がよかった。
だけどある日、そんなあいつは関わりに来るどころか、いきなり告白をしてきた。
あぁ、今度は俺が標的になるのか__
そんな感想を抱きながら、俺はあいつに恐怖を感じていた。
あいつと関わると、俺のトラウマがまた蘇ると。
告白を受けた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
何も考えられなかった。
あいつの告白に返事を返す余裕もなく、俺は逃げるようにその場を去った。
そこまではよかった。
あの場から逃れられることができれば、俺はまたあのトラウマを思い出さずに済む。
そう思っていた。
でも、現実はそう甘くはなかった。
彼女は俺のことを追ってきていた。
恐怖が全身を支配しそうになっていたが、俺は脳をなんとかフル稼働させ、全身に命令を送り、平然を装った。
あいつに抱いていた勝手な偏見はまだある。
ああいう奴は弱みを握って、それをきっかけに相手を支配しようとするのだ。
怖がっているところなんか見せてしまったら、それをきっかけにどういうことをされるか分かったものじゃない。
だから俺は、なるべく平然を装った。
ここで弱さを見せてはいけないと。
そうしてあいつと関わっていく内に、俺の中で崩れ去りそうになる何かがあった。
俺が散々あいつに抱き続けていた偏見だ。
あいつは、いい奴だった。
会話の中で先に繋がりそうな話題を出し弾みをつける。
俺からは話しかけないため一方的にあいつから話題が出てくるが、それでもあいつは嫌な顔一つしなかった。
それどころか、あいつは俺との会話を心から嬉しそうに満面の笑みを見せてくる。
そんな、いい奴だった。
たった一日あいつと過ごしただけでも、あいつがいい奴だということがひしひしと伝わってくる。
そんなあいつの姿が、俺の偏見を崩そうとしてくる。
でも、惑わされてはいけない。
きっとあの顔は、表面上だけの姿だ。
裏の顔があるに違いない。
俺が想像しているのを超えるような、どす黒い裏の顔が。
……あいつはきっと、これからも俺につきまとってくるだろう。
これから、自分にそう思い込ませながら生きていかなければいけないのかと思うと、億劫になる。
心が、苦しくなる。
俺は、誰も信じることができない。
信じて、一度失敗したから。
その失敗をもう二度と繰り返したくないから、俺は誰も信じない。
……信じたくないのに、信じてしまいたい。
疑いながら生き続けるのは辛いから。
苦しいから。
……なぁ、誰か助けてくれ。
俺はどうしたら、人を信じられることができるんだ?
頼むから、俺に人を信じさせてくれ__
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