プロローグ

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プロローグ

「付き合ってください!」 夕日が差し込む薄暗い階段で、一つの声が響き渡った。 授業が終わり、SHR(ショートホームルーム)を終えたあと、俺は担任に呼び出された。 曰く、追試が残っているからやれとのことだった。 俺はどこの部活にも所属していないため、放課後にはある程度余裕がある。 だが、俺は人が沢山いるところが苦手だ。 一刻も早く学校から出たかったのだが、追試があるのならしょうがない。 単位を落として留年はしたくないからな。 それに追試となれば、周りに人はいない。 ゆっくり追試をして、人が少なくなったらゆっくりと帰ることにしよう。 俺は頭の中でそう考えながら、追試を行う教室へ先導をする担任の後ろをついて行った。 教室についた俺に、担任は追試の説明などをして出て行った。 ここで俺は一人きりになる……はずだった。 ……なんでなんだ? この教室には、もう一人追試をしている生徒がいた。 しかもその生徒は俺と同級生かつ、学年で一番可愛いと噂されている女子生徒だった。 性格もよく、運動神経も抜群、それでいて彼女は学業成績も優秀なのだ。 そんな完璧な彼女が、なぜここにいる? 男子ならまだよかった。 ある程度は関わりやすいからだ。 まぁ、スクールカースト上位の陽キャとかが来られたら困るけどな。 だというのに、この教室には女子がいる。 それも俺と二人っきり。 おまけに学年一の『完璧美女』と来たもんだ。 ほんっと、勘弁してくれ…… 幸い、彼女が俺に気づく素振りは見せない。 俺はそっと胸を撫で下ろしつつ、追試に専念するのだった。 いや、こんな状況じゃ専念なんてできねぇだろ! そんなことを心の中で叫びながら。 3時半にSHRが終わってから実に2時間。 俺はようやく追試を終え、帰宅準備をしていた。 出来はというと、一言で言って最悪だった。 彼女と教室で二人きり。 その事実が、どれだけ俺を苦しめただろうか。 おかげで追試を受けていても単位を落としそうだ。 俺は大きなため息をつく。 すると、俺のため息が聞こえたのか、まだ教室にいた彼女がこちらに振り返った。 俺は彼女の視線を痛いほど感じながら、彼女の視線に気づいていないふりをした。 ……本当、どうしてこうなってしまったのだろうか。 彼女とは一度も視線を合わさずに、俺はそそくさと教室をあとにした。 俺は生徒のいない、しんとしきった廊下を、靴音を立てながら歩いていく。 早く帰って寝よう。 今日は精神をすり減らした。 誰もいない静かな部屋で扇風機をつけて寝よう。 俺は家に帰ってからのことを妄想しながら階段を降りていく。 その時、 「付き合ってください!」 夕日が差し込む薄暗い階段で、一つの声が響き渡った。 これが、俺、鈴木隆人(すずきたかと)と、彼女、斉藤未來(さいとうみらい)の出会い。 全く面識のなかった俺らの、最低最悪の出会いだ。
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