望みに向かって

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 僕の家に恋人がいる。あの日大泣きした彼女は会社にパワハラを訴えて休職(きゅうしょく)した。でも、ひとりにしたくないから一緒に住んでもらっている。とりあえず笑顔が少しずつ戻っているのがうれしい。  「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど……よく行動できたね?」  「うん、(あおぐ)……僕の親友が背中押してくれた気がする。お見舞いに行ったのに、逆になった気分だ」  彼女はふと黙り込んだ。心配そうな顔をして呟く。  「扇くん……大丈夫?」  どきんと胸が鳴った。  あの日、仕事を休んでいると聞いて見舞いに行った。けれど、風邪じゃなさそうだった。傍目(はため)にはあまり具合悪そうじゃなくて、でも扇はベッドで休んでいた。忘れていた。あいつも笑って大丈夫じゃないのに大丈夫って言う。  「ごめん、ちょっと行ってくる」  立ち上がった僕に彼女は笑う。  「同居人が増えても全然いいよ。トオルの家だけどね」
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