望みに向かって

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 家に辿り着いた男の手には花束とケーキの箱。ケーキは連れ合いの好きなイチゴのケーキ。息を切らして玄関前で深呼吸。いざと鍵を開けて「ただいま」と声をかける。迎えに出てきた連れ合いにずいっといつものカバンじゃなく、花束とケーキの箱を差し出した。  「いつもありがとう」  「え、急にどうしたの? 熱でもある?」  薄気味悪(うすきみわる)そうな連れ合いにめげずに男はぎこちなく笑みを浮かべた。  「感謝(かんしゃ)を、忘れていたと急に気になったんだ。家はいつも綺麗(きれい)で、朝も夜も温かいご飯がある。いつも洗濯された服があって、季節に合わせたアウターがある。それは、当たり前に思っちゃダメだったはずなのに、当たり前にしているなって」  「あなた、気付いていたのね。毎日の私の仕事に」  「家を中から守ってくれている大事なことだ。ありがとうは、僕が言わないと(たた)える人はいないのに。ずいぶん(ないがし)ろにしてしまったと……ごめん」
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