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真昼の通りは、騒ぎを聞きつけた野次馬たちであふれていた。テンガロンハットの先からブーツの底までほこりまみれの保安官が、しかめっ面で刑の執行をしようと準備している。今まさに殺されようとしている青年は、赤銅色のシャツにアイボリーのベストとジーンズというありふれた服装ではあるものの、その顔つきはこの辺りでは見かけない異国の風貌をしていた。その青年を荒っぽい大柄の男たちが押さえつけ、首に縄をかけようとしている。
「待ってください! 僕は馬泥棒なんかしていません!」
「もう罪状は決まったのだから、覆すことはできん。絞首刑だ」
絞首刑という言葉に、群衆が沸き立つ。無味乾燥な日常のささやかな楽しみを謳歌しているのだ。
「僕はちゃんと行商人から馬を買いました。その商人がコルビーさんの農場から泥棒してきたんですよ」
「何を言っても無駄だ」
「盗んできた馬だなんて知らなかったんです!」
青年のか細い声は野次馬たちの声にかき消されてしまった。
罪人は簡易的な木製の絞首台に吊るされた。その足元には老馬が一頭いる。執行人がこの馬を蹴とばすと、宙ぶらりんになって首が締まっていき、そのうち息絶えるという仕組みだ。
「それでは、馬泥棒の罪でこの無法者を死刑とする!」
保安官が大きな声で叫んだ、その時だった。銃声が轟き、青年を吊っているロープが撃ち落された。老馬はその音に驚いて逃げてしまった。可哀想な老馬よりもさらに驚いた人々は、音がした方を振り返る。町の端からこちらへ向かって、土煙を立てながら猛烈な速度で駿馬に乗って駆けてくる者の姿が見えた。
あっけに取られている保安官たちを前に、その謎の人物は絞首台へ馬に乗ったまま近づいてきた。そして地面に落ちて倒れている青年を拾い上げると、あっという間に走り去っていった。
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