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三日後、三日後だ。それまでに英気を養っておかないと。
その日から二日間、大樹には大事を取らせ部屋から一歩も外へ出るなと言い含めた。もちろん俺も出ない。飯は放っておけば運ばれてくるし、もう一分でも一秒でも離れてたくねぇ。
不思議なもんだ。面白そうだと思った男を可愛いと感じ、泣いてるのを見て良かったと安堵し、笑う顔に癒され、俺を見るその瞳にほかの何者も映すなと思う。
可愛いから好きだと思うまでは早くてあっという間に愛おしいと感じて戸惑った。離さねぇと囲い込んだもの初めてで、組のみんな、特に郷田さんが驚いていた。喜んでもいた。「お前にも執着する相手ができたか」と本当に嬉しそうに言ってくれた。
愛してるなんてくっさいセリフを吐いたのも大樹が初めてで、なんだ、大樹の初めてを全部貰うなんて偉そうな事を言って結局は大樹に全部持ってかれてんじゃん。
そう、誰かを抱いてあんなに止まらないなんて事も、大樹が初めてだった。抱き潰すなんて、そこまで精力ねぇわと関係を持った男たちには散々言ってきた。泣かれてもめんどくせぇと捨ててきた最低な男だと自覚はしてる。そんな俺が大樹に呆れられて捨てられねぇかと不安になったりもする。
可笑しくて笑っちまうよな。
馬鹿の一つ覚えみてぇに『愛してる』って言って『愛してる』って応えてもらって。そんでもっとそれ以上が欲しくて手の中にしまい込んで。
一人で立ってもらいてぇ、離れないでいてくんねぇかな、もっと自由でいてほしい、俺から目を離すんじゃねぇ。
こういうの、なんて言うんだろうなぁ。
愛してるなんてありきたりの言葉で括りたくねぇなぁ。
部屋に戻ってソファーに座って大樹の髪を梳く。傷んでキシキシいってた髪はシゲのおかげでサラサラになった。白髪はカラーリングで目立たなくなった。かさついていた肌はスクラブで滑らかになった。全体的に艶もでてきた。
・・・碧さんからの呼び出し、行かなきゃダメかなぁ。行きたくねぇなぁ。
「碧さん、なんの用事だろうね」
ようやくタメ口をきけるようになった大樹が久しぶりに会う碧さんにウキウキしている。
そんな大樹の横で俺はもう、帰りたい。
「あきらさん、まだ靴も履いてないよ?」
キョトンとした顔が可愛い。コイツ本当に三十五か?ああもう今日は一日ベッドの中でいいんじゃね?
どんなに顔を作っても笑顔振りまいても、例えば今大樹の持ってる紙袋の中身が昨日四時間も並んで買った「究極のチーズケーキ」だとしても。
ぜってぇ怒られんの目に見えてんじゃん。
行きたくねぇよぅ。帰りてぇよぅ。
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