本編。その4

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本編。その4

「で?」  片道二時間半?もっとかかった?そのくらい遠い所にある『清和会・本家』の大広間で仙道さんと二人、正座して頭を下げてる。  俺たちの目の前には風神と雷神、それからあの時はいなかった美青年がいて、どっちがどっちかはわからないけど、風神が胡座に肘をついて仙道さんをにらんでて、雷神は俺たちと風神の間を取り持つように座ってる。正座をしてるって事は、多分二人よりは格下なんだろう。―――充分怖いけど。  美青年は片膝を立てた格好でアイスを食べているんだけど、ちょっとだらしないはずなのにかっこいい。不思議。 「由貴(よしたか)」  美青年が誰かを呼ぶ。雷神の後ろの襖が開いて、これまた綺麗な人が「はい」と入ってくる。  なんのためにここに来たのか。多分だけど怒られるんだ。なんで怒られるのかはわからないけど、一昨日碧さんにも怒られたから。  碧さんは俺を囮に使った事と俺が怪我をした事、それから直前まで誰にも頼らなかった事を正座してる仙道さんと俺に立ったまま随分と長い事にこやかな顔で懇々と「やってはいけないこと」として説明してくれた。会う時は何時も優しい笑顔の碧さんがものすごく怖かった。組長さんも今回の計画の事を知ったのはかなりギリギリになってからだったみたい。  元々のんびりさんな郷田さん。あの顔に傷を作った時たまたまそばにいたのが前の白幡組の組長さんで、その時の抗争で白幡組の組員さんの殆どが大きな怪我を負ったり亡くなってしまって、組の存続を危ぶまれていたんだって。で、郷田さんも顔に傷があったらマトモに就職できないだろうと前の組長さんに言われて跡を継いだみたい。郷田さんはその時二十歳だったって一昨日碧さんが言ってた。  仙道さんは郷田さんについて行く形で白幡組に入ったんだとか。  十年以上前の出来事とはいえ、かなりニュースになったりしたはずなのに俺は全く知らなかった。対岸の火事どころかそんな事があったことさえも。  そして今目の前にいる美青年はその時の立役者で風神と一緒に対立していた組を壊滅に追い込んだらしい。 「僕が用事あるの、彰だけなんだよ。全く・・・可愛い子連れてきたらお仕置が半減するとでも思った?姑息なんだから・・・」  ガリッとアイスを齧りひょいひょいと手を振れば、由貴と呼ばれた美人さんに手招きされる。 「見たくないでしょ?大切な人が怒られてるところなんて」  ふわりと笑って美人さん・・・由貴さんに連れられて、渡り廊下を通って喫茶店へと入る。  不思議な空間。ヤクザさんの本拠地の真横にあって、そこと廊下で繋がってるのにとっても穏やかな場所。
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