本編。その4

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「ここはね、俺の大切な場所。蒔原と一緒に生きていく場所」  カウンターの向こに回ってコーヒーを入れながら由貴さんが言う。その隣ではバイトの子?が洗い物をしている。 「コーヒーでも飲んでゆっくりしてて」  柔らかい雰囲気の美人さんは安藤由貴ですと名乗り、隣の子を息子だと紹介してくれた。 「千秋は弁護士さんでね、自慢の息子なんだよ」  ニコニコと嬉しそうに笑う安藤さんの横で照れくさそうにしてる千秋さん。色々あったんだって。人には言えないような事も。でも今は二人とも幸せそうに笑ってる。 「顔の腫れ、早く引くといいね」  由貴さんと蒔原さんとの子ども。蒔原さんが誰なのかはわからないけど、多分日下部さんの所と一緒で、引き取ったんだろう。辛い事もあったに違いない。それでも笑っていられるなら。  俺だってこんな傷早く治してまた仙道さんにたくさんキスしてもらうんだ。腹の方も早く治してエッチもしたい。  ―――不思議だ。枯れてると思ってたのに、衰退済だと思ってたのにこんなに欲しいと思うなんて。仙道さんに抱かれたい。トロトロに蕩けてとけてしまいたい。 「ちょっとエッチなこと考えてるだろ」  クスクス笑いながら、由貴さんがサービスだとケーキをくれた。 「このケーキはね、楢橋くんっていう子が作ってくれたんだ。今日、三沢くんが来るって言ってたから。三沢くんは車?」  ひょいと外を見て、ああ、とまた口元に笑みを乗せる。 「三沢くんと楢橋くんは昔からの知り合いだからね。後何人かいるんだけど、本当に仲が良かったんだ」  十年以上前の抗争は清和会系の組に様々な傷跡を残した。そのうちの一つが三沢さん。楢橋くんと一緒にその抗争に乗り出した三沢さんの友達が生死の間をさまよう大きな怪我を負った。誰よりも責任感の強い三沢さんは止められなかった自分を責めてその友達と離れてしまったんだって。・・・数ヶ月で見つかって、今日の仙道さんみたいにあの美青年に叱られたみたいだけど。それから郷田さんに預けられてしっかり成長して今の三沢さんがいる。  ああ凄いな。みんなどこかで繋がってる。  何人もの組員さんに怪我をさせ隠退に追い込んだ抗争。解散したり代替わりした組が多かった中で白幡組は一番大きな変化をした。組長以下十人にも満たない組だったのに、郷田さんを慕って来る子たちがたくさんいたらしい。
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