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十人にも満たない組員のほとんどが亡くなったり怪我をしたりして、組として機能しなくなって、解散する方向で動いていた前の組長さん。抗争が終わる寸前に怪我をした郷田さんを助けて、組を任せたいと申し出たと言う。最初は渋っていた郷田さんも、自分を慕ってくる人たちを無下にするわけにもいかずに、しかもその時自分の右腕だと信頼していた仙道さんにも勧められた事で、五年前に組を継いでいく決意をしたんだって。
顔に傷があってもなくても、郷田さんの人柄に集う人が多くて、それこそ五人にも満たないところから再始動した白幡組は今や清和会イチの人数を誇ってる。
全員食いっぱぐれることなく養ってる郷田さんの手腕は清和会の中でも語りぐさなんだとか。
トップに立つ器じゃねえと言う郷田さんを押して止めて引いてノせて、組を廻しているのが仙道さん。ケンカも強いけど、実は商才があったらしく始めた事業は全て波に乗り軒並み上場してるらしい。そういえば最近始めた人材派遣の会社も上手くいってるって聞いた。
仙道さんも郷田さんも、組員さんを守るのに力を尽くしてる。
「俺も・・・」
俺も守りたい。仙道さんが守るものを一緒に守りたい。
その時「けんちゃ〜ん」という可愛い声が聞こえて、外を覗き見る。そこには声と同様に可愛い人がいて、三沢さんの手を嬉しそうに取って振り回してる。その後ろでは強面のイケメンが三沢さんを睨んでるけど。
「あの子たちもここの組員だよ。後ろのは表立って出ては来ないけど」
えっと・・・ここはこの辺り一帯を纏めてるかなり大きなヤクザの本拠地だよね?なんでイケメンと美人しかいないの?
そんなことを考えて目をパシパシさせる。千秋さんが笑いながら「あの二人もお付き合いしてるんだ」と言う。由貴さんも千秋さんも、この人たちはずっと嬉しそうにしてる。きっと幸せなんだろう。過去じゃなくて今が。
「愛し合うっていいよな。本人たちもそうだけど、見てるこっちまで幸せになれる」
蒔原さんを思い浮かべているのか、由貴さんの顔に少し赤みがさす。まるで女神みたいだ。
「由貴さんも蒔原さんを愛してる?」
「う〜ん、どうだろうな。俺はもうとっくにその時期は過ぎたかも」
愛してるの時期を過ぎるとどうなるんだろう。前に感じた『足りない』の部分が埋まるような?どうだろう。
「愛してるじゃ足りないって事はないですか?」
好きが大好きになって恋しくなって愛しいになる。それは本で学んだ。でも俺は恋しいがよくわからない。それよりも前に『愛してる』と自覚したから。そして今は『愛してる』じゃ足りないと思ってる。
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