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もっとそれ以上の言葉で仙道さんに伝えたい。伝えたいのに言葉を知らないから伝えられない。それがもどかしい。
「愛してるじゃ足りない?それ以上の言葉?ないんじゃないか?」
ただ、愛してるの次は『食いたい』だと思うぞって由貴さんが笑う。
食いたいが高じてセックスがあるんだろうと。肉欲だけじゃない、想いを伝える術としてのセックス。
「どう考えても互いに食ってんだろ、アレ」
きっ・・・綺麗な顔でそんな事を言わないで欲しい。ちょっと恥ずかしくなって俯けば千秋さんと二人でまた笑う。
「あんちゃん、即物的。人間それだけじゃないでしょ。愛の次なんて考えた事ないけど、執着とか束縛とか?ヤンデレが究極の愛だって言う人もいるし」
千秋さんは苦笑いしながら手を拭き、コーヒーを入れながら人それぞれなんじゃない?と言う。千秋さんにも同性のパートナーがいて同じ弁護士事務所で働いてるらしい。
由貴さんも千秋さんもパートナーとはもう十年以上のお付き合いなんだとか。俺と仙道さんもそんな関係になれるのかな。
「俺の場合は・・・蒔原は命、かな。空気のような存在で、居ないと生きていけない。千秋ももう大人だし、この先蒔原が死んだら俺も死ぬ」
幸せそうに由貴さんが笑う。俺だってそう思ってる。泣いて喚いて置いてかないでって一緒に死にたい。でも多分、俺と由貴さんじゃ何かが違う。それが何なのか今はわからないけど、できるならこの先ずっと仙道さんと一緒にいて、俺と由貴さんの違いに気付いて少しでも由貴さんの場所に近づけたらいいと思う。
「何の話だ?」
扉の開く音がして、奥から雷神が顔を出す。
「あぁ、蒔原には関係の無い話だよ。ネコの話に入ってくんな」
クスクス笑っていそいそと雷神・・・蒔原さんの側へと向かう由貴さん。いそいそって言葉がぴったりな動きだった。っていうか、蒔原さんて雷神の事だったんだ。
軽く口付けて小さな声で話しながら奥へと消えていく。
「何年経ってもあの二人はイチャイチャイチャイチャと・・・」
苦笑いなのか照れ笑いなのか、千秋さんがやっぱり笑いながら「貴方のパートナーもそろそろ来るんじゃない?」とコーヒーをひと口。いくつなのか知らないけど、確実に精神年齢は俺より上だと思う。
由貴さんだけが戻ってきて、静かに時間が進む。カランカランとドアベルが鳴り、何人かのお客さんが入ってきて千秋さんが動く。
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