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静かで優しくて穏やかな場所。俺が今住んでいるあの部屋、仙道さんの部屋はこんな風に穏やかにできているかな。優しい部屋になってるだろうか。
由貴さん。彼を目標に、彼と彼のパートナーのように相手を『命』と言える関係を仙道さんと創っていこう。
「だー!!!!もう勘弁してってば!わかった、わかったから!もうしねぇし!」
ドタバタと奥の扉が開き仙道さんが頭を抱えながら走り込んできた。
もう!せっかく静かな空間が一気に騒がしくなる。元々仙道さんはそんなに騒がしい人じゃないのに。ここに来てから、子どもみたいに拗ねたり膨れたり。
仙道さんにとってここは実家のような存在だと郷田さんが言っていた。実家というモノを俺はよく理解してない。してないけど、なんだかここはあったかい。
「彰、うるさい」
由貴さん助けてくれって!と叫び由貴さんの後ろに隠れる仙道さんに冷たい目で一言だけで答える由貴さん。逃げる仙道さんの後を追って来たのはあの美青年だ。
薄ら口の端を上げていて、美しいだけに恐ろしかった。
「彰、僕の教えを守らなかった理由を聞いてるんだよ?逃げなくても答えられればいいんだから逃げないでよ」
片手にしなやかなムチのような物を持ち、風神と手を繋いで。
「ミツ、あんまり脅してやるな。彰の可愛い子が怯える」
風神の手がすぅっと美青年の頭を撫で、そのまま顎へと降りた手が優しく顔を自分の方へと向ける。その目からは大人の男の広い包容力と深い愛情が滲んでいた。ミツと呼ばれた美青年を慣れた手つきで抱き寄せその耳元へと口を寄せる。
擽ったそうに肩を竦めた美青年が仙道さんをひと睨みした後、俺を呼んだ。
「大樹?こっちにおいで」
俺も怒られるんだ。それはわかる。だって俺も碧さんに怒られたもの。無茶して怪我して心配させて。静かに懇々と説明されて、初めて俺のした事・・・俺と仙道さんのした事は白幡組のみんなの心を痛めてたと気付いた。だから甘んじて受ける。だからどうかこれ以上仙道さんを叱らないで欲しい。
仙道さんの帰る場所が無くなってしまう。仙道さんと一緒に生活するようになって『ただいま』が温かい言葉だと知った。だから『ただいま』を言う場所を仙道さんから取らないで。
さっきの大広間に戻って広間の隅でミツさんと膝を突き合わせる。広い空間にたった二人はちょっと寂しい。
浅野弥彦と名乗ったミツさんに改めて加藤大樹と名乗る。何度も名前を呼ばれているし、仙道さんみたいに調べてもいるんだと思うけど。
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