本編。その4

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♢ 「本家ヤダよぅ。もう行きたくねぇよぅ」  帰りの車の中でグチグチ言ってる仙道さんの頭をヨシヨシと撫でて、仕方ないよなぁって思う。  本家の玄関をぬけた所で仙道さんは清田さんに呼び止められて「来月から鍛え直す」と宣言されていた。  俺が拐われて怪我をしてしまってから、仙道さんは自分を隠さなくなった。というか隠してた事すら知らなかったんだけど、素の性格が出てきたって事なんだろう。顔を作って『いい男』を演じる事がなくなったんじゃないか、と司くんが言っていた。昨日。  本家に来てからは取り繕う事も出来なかったみたいで、清田さんを見て怯え蒔原さんを見てふるえミツさんを見て泣きそうになっていた。昔いろいろあったんだろう。敢えて突っ込まない。ただ羨ましいとは思うけど。  明日からはまたいつも通りの日常が待っている。増岡組の嶋田と木ノ下は拘束済みだし、お飾りだった嶋田ではなく実質トップの木ノ下の下についていた人たちもあの後二十四間かからずに拘束されたらしい。つく人を間違ったんだろうな。  日下部さんは、元さくら組というブランドがいつまでもあるのはおかしいと、元さくら組そのものを無くしてしまおうとしてる。どうやるのか知らないけど。日下部さんは有名な国立大医学部だったらしいけど、医学部時代に強烈なイジメを受けていたんだって。それに加えて父親が交通事故で半身不随になった事で仕事を辞めてしまって、学費の支払いにも困るようになったって。その事でイジメも過熱して構内でケンカしたのに反撃した結果、暴力事件として取り上げられて退学。 「もう踏んだり蹴ったりですよ」  と笑う日下部さんは今はもうなんとも思ってないって言うけど。 「大丈夫です。仇は並川が取ってくれましたから」  並川さんに惚れてこの世界に入った日下部さん。それに司くんも大変な過去を持っていた。日下部さんも辛い過去がある。もちろんムシャクシャして、とか好きで、とかそんな理由でケンカに明け暮れての結果としてここに来た人もいるけど、みんな辛かったり大変だったりした過去がある。  みんなの話を齧る程度に聞いて、俺はそんなに大変じゃなかったなぁと思う。いじめられてたけど子どもの時だったし、殴られたりした事はなかった。借金はあったけど毎月キチンと支払ってたから、会社まで押しかけて来るような取り立てはなかったし。
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