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そう言うとみんな「姐さんも大概っすよ?」と眉を下げて泣きそうになる。でも結局最後には「でもほら、ここに来れたから」って笑うんだ。
「そのための過去なんだったら、仕方ないかなって思いますね。だって今は幸せですから」
と言う日下部さんの言葉に大きく頷くんだ。そう、今があるから過去はどうでもいい。そう思える自分が好きだ。
腹の青あざが消えて顔の腫れも引いた頃、仙道さんが新しく始めた人材派遣の会社での仕事を再開した。やっぱり過去があってまともに就職出来ないだろう人を集めた会社。それともうひとつ、清掃会社も作ったって言ってたな。前にフルオーダーで作ったスーツはこの時のためだったんだ。いつ届いたのか、俺は知らなかったけど。っていうか今の今までどこにあったんだろう。
「ああ、やっぱり似合うな」
パッと見濃紺な感じなんだけど、よく見るとものすごく小さいチェック柄のスーツは、さすがオーダーメイドというくらい俺にぴったりだった。
「あと五着あるから着回しには困らねぇだろ?」
ほら着てみろと渡された濃紺のスーツを着て、クルリと一回転してみせる。似合う似合うと言われて照れてしまってると、にこやかな仙道さんからの爆弾発言。スーツがそんなにあってどうすんの?と騒げば「何言ってる、これから社会人だろうが」と軽く流されてしまう。
「ちょっと待ってろ」
と消えた仙道さんが戻ってきた時は空いた口が塞がらなかった。
「お揃い。やべぇスーツでペアルック」
ケラケラ笑う仙道さんに、お願いだから同じ日には着ないでくださいと懇願しておいた。無理でしょ。大の大人がスーツでペアルックなんて。
あまりにも恥ずかしくて日下部さんに泣きついた。ついでに本家のミツさんにも告げ口しておいた。そうしたら「次に来る時はペアルックでおいで」と言われてしまった。ぐぬぬ・・・本家お母さん、やりよる。
商店街の真ん中に空きビルがあったからって仙道さんが借り上げて、一階にランチがメインのレストランを、二階には女の子が好きそうな文具専門店を誘致して、三、四、五階に人材派遣と清掃会社を置くことにしたみたい。
俺は前職のキャリアを活かして、書類整理をする事になってる。仙道さんが来る時は専属の秘書扱いで。そして社長は碧さん。喫茶店を他の人に任せて、人材派遣会社の社長に就任。仙道さんは何とか部の部長なんだけど、実際は「俺はなんにも専務〜」とあちこちの会社を渡り歩いてる。
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