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その日の帰りも7時ちょうどでは待ち伏せされてはいけないと、6時35分という中途半端な時間に帰るように言われた。申し訳ないとは思ったが、本当にストーカーなら危険なことも知っている。走るとポカポカする頭を思い出し、帽子をリュックに突っ込むと店を出た。
店を出る時には池田さんが一緒に出て周りを確かめてくれる。
「ここには、いないね。樹里ちゃん、気をつけて」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
そう歩き出すと
「走りなさいよー」
池田さんの声が聞こえ、後ろを向いて手を振ったあと走り始めた。ふーっ、銀行のある方へ横断歩道を渡るために信号待ちで止まると、少し息がきれているのがわかり‘トレーニングだな’と思い直す。その私の隣にピタリと立った人が
「急いでるの?樹里ちゃん」
私の顔を覗き込んだ。
「キャッ…」
信号が青になり数人が前進する中、思わず後退する私はモッズコートの男とその場に取り残される。
「いやっ…」
さらに一歩後退する私に
「何が嫌?樹里ちゃん、まだちゃんと話したこともない人に嫌って言うのはいけないよ。少し話をしようよ」
「…ぃやだ…」
嫌と言えば逆上されるかとも頭に過るが嫌しか言葉は出ない。男の手が動くのがわかり、殴られるとは思わない動きだったが、掴まれるのか頭を撫でられそうだと咄嗟にしゃがみこんだ。
「おいっ、大丈夫か?」
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