王子様ならいいけれど

23/40
5735人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
その日の帰りも7時ちょうどでは待ち伏せされてはいけないと、6時35分という中途半端な時間に帰るように言われた。申し訳ないとは思ったが、本当にストーカーなら危険なことも知っている。走るとポカポカする頭を思い出し、帽子をリュックに突っ込むと店を出た。 店を出る時には池田さんが一緒に出て周りを確かめてくれる。 「ここには、いないね。樹里ちゃん、気をつけて」 「はい、ありがとうございます。失礼します」 そう歩き出すと 「走りなさいよー」 池田さんの声が聞こえ、後ろを向いて手を振ったあと走り始めた。ふーっ、銀行のある方へ横断歩道を渡るために信号待ちで止まると、少し息がきれているのがわかり‘トレーニングだな’と思い直す。その私の隣にピタリと立った人が 「急いでるの?樹里ちゃん」 私の顔を覗き込んだ。 「キャッ…」 信号が青になり数人が前進する中、思わず後退する私はモッズコートの男とその場に取り残される。 「いやっ…」 さらに一歩後退する私に 「何が嫌?樹里ちゃん、まだちゃんと話したこともない人に嫌って言うのはいけないよ。少し話をしようよ」 「…ぃやだ…」 嫌と言えば逆上されるかとも頭に過るが嫌しか言葉は出ない。男の手が動くのがわかり、殴られるとは思わない動きだったが、掴まれるのか頭を撫でられそうだと咄嗟にしゃがみこんだ。 「おいっ、大丈夫か?」
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!