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そのまま僕たちが食べ終えるまで二郎さんは話さず、僕たちの食事が終わる頃を見計らって珈琲を入れてくれた。
「昴くん」
そっと珈琲を僕の前に置きながら二郎さんが言う。
「急な誘いで悪かったね」
「いえ。ごちそうさまでした」
「昴くんは樹里のことを…家族のことを知っている。知りながら、誘いを断らずにこうしてここにいるんだね?」
自分も珈琲を手に再び座った彼と、その隣の陸斗、シンク前の真矢ちゃんと真澄さんが僕の真意を探るよう、こちらへ注意を向けた。樹里は珈琲にミルクを入れてそれを混ぜ…彼女だけが僕の隣で動いていることが僕をとても冷静にさせた。
「はい…その通りです」
自分でもゆったりとした口調だと思った。しかし樹里に慣れているからか、ここにいる人からは苛立ちや不快感を感じない。
「樹里のことを…彼女が経験したこと…経験せざるを得なかったことの全てを知った上で、樹里のかけがえのない大切な家族に会っています…お会いできて僕は嬉しい」
「ふふっ…」
「うん?樹里、どうかした?」
隣で小さく笑った樹里を僕だけでなく皆が不思議そうに見た。
「昴は‘嬉しい’ってよく口にするの…私が両親のことを話しても‘教えてくれて嬉しい’ってね。何度も‘嬉しい’って言うの。今また言ったと思ってね…いつもの昴だなって思っただけだよ」
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