天使に会えたけれど

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樹里を送り届けた先は玄関ドアが2枚ある二世帯住宅のようだった。 「話はまだまだ足りないけど…今夜は遅いから家に入って、樹里」 「ありがとうございました。ごちそうにもなっちゃって…ありがとう」 「今度は飲めるように誘うよ」 「はい」 「いい夢みて…樹里。おやすみ」 「…いい夢みて…」 「どうかした?」 「いい夢みてよ、プリンセス…祖父の毎晩のおやすみの言葉でした」 「そう…」 瞳を宙に浮かせ揺らす樹里の髪をそっと撫でる。それでも身動きしない樹里を車内に残し車を降り、助手席のドアを開けた。 「樹里…いい夢みてよ、プリンセス。おやすみ」 そして彼女が家へ入るのを見届け暖かい車内へ戻る。 ‘祖父の毎晩のおやすみの言葉でした’一度口に出してから車をゆっくり出す。毎晩ということは一緒に暮らしている、でしたという過去形…祖父母と伯母の存在は口にした樹里だが親きょうだいは出てこないな。 数時間では俺も話しきれていないから同じようなものか…これからずっと一緒にいるんだ。急ぐことはない。
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