5831人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいま…」
夜中だが小さく言うのは習慣だ。
「おかえり、輔」
「昴、いま風呂?」
「うん」
「今日、店で助かった。サンキュ」
昴は俺の二卵性双生児の兄だ。子どもの時は見分けがつかないと言われていたようだが、徐々に普通のよく似た兄弟くらいになっていると思う。昴と二人でJOYを起業した時から、このマンションで一緒に暮らしている。ルームシェアの感覚だ。
「たまたまだけどね。僕も毎日ずっと店にいるわけではないから」
「でも助かった。けど、待ち伏せされてたから通報したんだ」
「店で僕が通報すれば良かったね…樹里に悪いことしたな」
人見知りで物静かな昴は、経理を中心に事務所でデスクワークの要だ。輸入業務もこなす静かな副社長と社内で認識されている。
その昴に、俺が動けない時には樹里のことを見守ってもらっていた。もちろん他の店舗にも客をして行くようにも頼んだが、それはついでだ。
「彼女…樹里って綺麗で、仕事中も動き回っていて普通の女の子のはずなのに…何でだろうね…何かが欠けたように脆く儚く見える」
昴はこの数年、同じことを繰り返し言い、俺もまたそれに同感なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!