天使に会えたけれど

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「ただいま…」 夜中だが小さく言うのは習慣だ。 「おかえり、輔」 「昴、いま風呂?」 「うん」 「今日、店で助かった。サンキュ」 昴は俺の二卵性双生児の兄だ。子どもの時は見分けがつかないと言われていたようだが、徐々に普通のよく似た兄弟くらいになっていると思う。昴と二人でJOYを起業した時から、このマンションで一緒に暮らしている。ルームシェアの感覚だ。 「たまたまだけどね。僕も毎日ずっと店にいるわけではないから」 「でも助かった。けど、待ち伏せされてたから通報したんだ」 「店で僕が通報すれば良かったね…樹里に悪いことしたな」 人見知りで物静かな昴は、経理を中心に事務所でデスクワークの要だ。輸入業務もこなす静かな副社長と社内で認識されている。 その昴に、俺が動けない時には樹里のことを見守ってもらっていた。もちろん他の店舗にも客をして行くようにも頼んだが、それはついでだ。 「彼女…樹里って綺麗で、仕事中も動き回っていて普通の女の子のはずなのに…何でだろうね…何かが欠けたように脆く儚く見える」 昴はこの数年、同じことを繰り返し言い、俺もまたそれに同感なのだ。
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