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「…えっと…お店でとか道でも見たことがあります」
「そうだったよね」
ひどく静かな声だが、冷たいわけではなくこの世の全てのデコボコを吸収してくれそうな穏やかな声。
「輔から聞いているから…はじめましての気もしない…僕のことは昴でいいから、ね…樹里」
「…昴」
「うん…そうだよ、樹里。僕の運転だけど乗ってくれる?輔と後ろに乗ってくれたらいいよ」
昴から目が離せないまま頷くと彼はほんの僅かに目元を緩めたように見えた。
「樹里」
後部座席のドアを開けた輔に礼を言い座席に座ると、数秒間昴と二人きりの車内でまた心臓が大きく音をたてる。どうしちゃったのよ…
「食事して帰ろうか?」
「…ううん、今日はうちに帰る」
「怒ってる?」
「ううん、怒ってないよ。昨日休みだったからカレー作ったのが残ってるの」
「そうか、残念。じゃあ送る」
輔がそう言うと車を発進させた昴は私の家がわかるのだろうか?
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