天使でなくプリンセス

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「前から僕の感じていることなんだけど…」 そう前置きしたところでマンションが見えてくる。左後方からのバイクや自転車を確認しながら左折でマンション駐車場へ入ると、僕の車の隣にゆっくりとバックで停車させた。 「輔は…勘違いをしているように感じるんだよ」 「何を?」 「樹里のことを天使って言うでしょ?」 「ふっ…天使そのものだからな」 「それ」 「天使?天使が勘違いだと?」 春物の黒いビーニーキャップを脱ぎ、髪に二、三度わしゃわしゃと指を通したあと僕の感じる違和感を伝える。 「輔が初めて彼女を見た光景が衝撃的過ぎたんじゃないかな…」 輔はシートに体を沈めたまま身動きしない。車から降りずにこのまま聞くということらしい。 「僕もあの病院の中庭を知っている。樫の木も…そして樹里…ラファエロかルーベンスに描いて欲しいような構図だよね」 「間違いない。俺に絵心があれば描くが…」 そう言った輔は、その時のことを思い出したのだろう。少し目を細めたのがミラー越しに見える。 「でも僕には天使に見えないんだ…」
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