天使でなくプリンセス

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「樹里は休みは何するの?」 「うーん…家のこと?」 「えらいね、カレーも作っていたし自立した女性だ」 ちょっと違う感覚なのか? 「ごめんね…ちょっと違ったかな?」 「…昴は私の祖母のこと知ってるの?」 「ばあちゃんから話は聞いてる。ターシャでしょ?僕も輔もばあちゃんっ子だったんだ。母は父の渡瀬商事でバリバリ働いているからね。輔から聞いてる?」 自転車のかごを見るように視線を下げた樹里が微かに首を横に振る。 「母は昔から人事専門で日本全土を飛び回っていたよ。今は少し出張は減ったようだけど。だから僕たちはばあちゃんっ子。ばあちゃんの退院の時には僕が迎えに行ったよ。ターシャに挨拶してくるから少し待って…て言われて帰り道にターシャの話を聞いた。大変な手術をしたんだってね」 「…うん…あの時は乗り越えたけど…他にも弱っちゃって…2年後に亡くなっちゃった」 「そうだったの…でも樹里」 「うん?」 「その2年一緒にいられて良かったと思える?」 「思える」 「そうか…どんな2年だったか僕には想像がつかないけど…樹里がこうして迷いなく良かったと思えるなら、ターシャが大変な手術を乗り越えたかいもあるし、二人とも幸せだってこと」 僕がそう言うと樹里は息を飲み、完全に歩みを止めてしまった。樹里…その名を呼ぶことは出来なかった。彼女が声を出さずに大粒の涙をポロポロと溢したと思ったら、彼女のライトグレーの薄いコートの胸元をチャコールグレーに変えて行く。僕は自転車から樹里の手をそっと避けると、歩道の隅に自転車を止めてから彼女の手を引き寄せた。
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