王子様と進む

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「仕事はどうだい?もう慣れた?」 「うん…少し」 「立ちっぱなしかい?」 「ううん。腰を掛けられるスチール椅子があるから、応対がなければ掛けられるの」 そこへ、薄い珈琲カップに淹れられた香り高い珈琲が運ばれてきたので、ミルクだけ入れてそっとスプーンで混ぜながら 「お父さん、もう送金最後にしてね」 そしてスプーンをソーサーに置き手を膝に揃えると 「長い間…ありがとうございました」 ゆっくりと頭を下げた。就職先で教えて頂いたことには、お辞儀の仕方も含まれる。先言後礼(せんげんごれい)が基本のルールだと教わった。まずは‘ありがとうございます’などの言葉を発してから、その言葉の語尾と共に頭を下げる。意識していないと言葉と動作を一緒にしてしまいがちだが、頭を下げながら発声すると声が下に向かって落ちていくので聞こえにくくなるし、表情が見えないと言葉は心に届きにくい。 「樹里」 私を呼ぶ父を見ると 「送金はもういい…前にも聞いたね?でも私は止めなかった…止められなかったんだ」 そう言ってから父は何も入れずに珈琲を一口飲んだ。
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