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「このドブスめ!」
若い女はののしりながら、机の上で、写真にナイフを突きたてる。
「お前なんか、お前なんか、浩之さんに愛される資格はないんだ」
顔をゆがめ、汚い言葉を吐き、何度もナイフを突きたてる。
写真に写った女性のさわやかな笑顔に、無残に穴があき、切り刻まれていく。
占い師がさずけた呪詛とは、浩之の現在の恋人を呪い殺す方法だった。恋人さえ死んでしまえば、博之は再び彼女のもとへ帰ってくる、と告げたのだ。
だから若い女はそれを実行している。
自分の部屋にこもって、照明を消し、呪具のろうそくをともす。呪具の香を焚き、呪具の薬をのみ、呪具のナイフを浩之の今カノの写真に突きたてるのだ。
それだけでは足りない。ナイフで自分の指の先を切って、写真に血をたらした。薬のおかげで、ほとんど痛みはない。ポタポタと血をたらす。
「死ね、死ね、ドブス」
写真の女性は切られ、血にぬれて、もはやどんな顔なのかわからなくなっている。
若い女はしだいに興奮してきた。薬のせいだろうか。指の先を切ったくらいでは飽きたらなくなってきた。
手のひらに切れ目をいれた。
手の甲も切った。
腕も切った。
「死ね、この女、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
若い女の目が大きく開き、らんらんと光をおびる。
もはや正気を保っていない。
ゲラゲラ笑いながら、二の腕を切り、肩を切る。
それから――。
自分の首筋を一気に、しかも深く、ナイフで切った。
血がどっと噴きだした。
写真はもとより、机の上も、床も、まっ赤な血にまみれた。
若い女は血の海につっぷして絶命した。肩まである髪が机に垂れて、べっとりと血を吸った。目を見開いたままの顔には狂気の笑みが貼りつき、その口は、
――浩之さんはあたしのものよ。
と、訴えているかのようだった。
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