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「お願いです、先生」  その若い女は、テーブルに頭をこすりつけるようにして頼みこんだ。「どうしても浩之さんの愛を取りもどしたいんです」  丸テーブルをはさんで向かい側に腰をおろしているのは、でっぷりと太った中年の女だ。化粧は濃く、黒いドレスを着て、首に幾重にもネックレスをぶらさげている。彼女は、その道では有名な占い師だった。 「困りましたね。占いによると、浩之さんはこのまま新しい恋人と結ばれ、じきに子供ができる、あなたとの愛が復活することはない、と出ているのよ」 「そこをなんとか、先生のお力で。お金なら用意しますから」  占い師の目が、キラッと光る。 「そう? お金の問題じゃないけど……。そうね。復活愛の呪詛というのは確かにあります。でも、それに用いる呪具というのが、とても高価なの」 「かまいません。浩之さんの愛がもどってくるなら、いくらでも払いますから」  若い女は色白で、顔の造りだけをいうなら、美人の部類に入るだろう。しかし、そうして必死に懇願するときの顔は、ひどくみにくかった。 「しかたないわねえ。じゃあ、お譲りするわ」  占い師は、しれっとした顔でそう言うと、部屋の奥からいくつかの呪具を持ってきて、呪詛の方法を説明しはじめたのだった。
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