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12月も半ばを過ぎ、ずっと暖かかったこの冬もようやく寒さが本番になってきた。
昨日はこの冬一番の冷え込みになり、今日もお天気ながら冷たい風が吹いている。
日向はぽかぽかで暖かいのにな。
いつも待ち合わせに使っているカフェの、日が当たる窓際の席に座りながら、風が吹く度に首をすくめている通行人を眺めていると、向こうの信号を渡って来る待ち人の姿が見えた。長身で颯爽とコートの裾を翻しながら歩いてくる様は、まるでどこかのモデルのよう。すれちがう人が振り返るも本人は全くお構い無しに、窓から見ているオレに気づくと満面の笑みを浮かべて走ってきた。
オレのアルファはかっこいいな。
その笑顔のままカフェに入ってきた彼はいつものカフェラテを注文し、それを手にオレのところにやってきた。
「ごめん。遅れた」
別に時間は過ぎてない。オレが早く着いただけだ。だけどこの優しい男は、いつもすぐにオレに謝る。
「遅れてないよ。それよりごめんな。急に呼び出してさ」
コートを脱いで座る彼。その立ち居振る舞いもかっこいい。本当、オレにはもったいない。
「全然。僕は予定より早く真琴に会えてうれしいよ。でも、明日じゃダメだったの?」
本当は明日の日曜日に会う約束になっていた。それを今日、午前中仕事だという彼を急に呼び出したのだ。
「ん・・・。どうしても今日、当麻に話したいことがあって」
明日じゃ、ダメなんだ。
「あのさ、オレたち別れよう」
オレは少し冷めてしまったロイヤルミルクティーのカップを両手に包むように持ち、なんでもないことの様にサラッと言った。だからだろう。当麻は最初何を言われたのか分からなかったようで、普通にカップに口をつけた。けれど次の瞬間、カップをテーブルに強めにドンと置く。
「え?」
その表情の変化は、まるで映画のワンシーンのよう。
最初は聞き間違いかとちょっと笑い、だけど確かに聞こえたと思案顔になって、そして顔を強ばらせて身を乗り出すと、オレに詰め寄った。
「今なんて?」
「別れよう、て言ったんだ」
オレはそんな当麻の目を真っ直ぐ見てもう一度言う。
「ちょっ・・・な、なんでそんな急に?だって僕たち・・・」
当麻は顔を強ばらせながら何度も瞬きをして、オレの言葉を理解しようとしてる。けど、あまり成功していない。いつも余裕たっぷりの優秀なアルファは、今のこの状況に動揺して唇を震わせている。
それはそうだ。
オレたちは結婚を決め、明日予約した式場に打ち合わせに行くはずだったんだから。
「式場は今日キャンセルしてきた。まだなんにも決めてない段階だから特にキャンセル料は取られなかったよ」
動揺する当麻をよそに、オレは淡々と話を進める。
「ちょっと待って。全然分からないよ。なんで?僕たち上手くやってたよね?結婚だって・・・なのになんで・・・別れる?」
手を伸ばしてオレの腕を掴む当麻。その手も声も動揺で震えている。
当麻の言うことはもっともで、オレが今こんなことを言うまで、オレたちは結婚を控えた幸せな恋人同士だった。
別れる気配なんて微塵もなく、両家の両親にも挨拶済みで、二人で式場巡りをしてようやく式場を決めたばかりだ。その初めての打ち合わせを明日に控え、当麻は今日、その打ち合わせの話しをすると思っていただろう。
きっとオレたちは今、何も無ければ幸せの絶頂にいるはずだった。だから当麻の動揺も混乱も無理はない。
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