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 私だ。私の死体が見える。朱く揺れる暗がりの中、ワンピースだけが黒く、照明から静かにぶら下がっている。成功した。半信半疑だったが、あの話は嘘ではなかったのだ。床に広がった炎が椅子とテーブルを伝い、ついにワンピースの裾を捕えた。服と髪が燃え上がり、輝いたかと思いきや、死体は厚い煙の中へと強引に引きずり込まれゆく。扉が、ソファが、カーテンが、最初で最後の荒々しい輝きを絞り出している。  足に火が点いたのか、痛みが這い上がってくるというのに、体は凍り付いたまま、身じろぎどころか目を向けることさえできない。この体に出来るのは、ただ耐えることだけ。だが、熱さと、痛みと、苦しみが、今更一体何だというのだ。どんなに激しく炎が燃え盛り、全てを覆い尽くしたとしても、じきに通り過ぎる。後はこの体が、最後まで燃え尽きれば。照明のコードが千切れて死体ごと炎に沈み、やがてそれすらも朱い嵐に飲まれた。耐えろ、耐えられない筈がない。後少しで望みが叶う。あの女に奪われた、全てを取り戻せるのだから。
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