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 最近よく、同じ夢を見る。娘が生まれる前の、古い夢。梅雨が夏への隘路を閉ざし、まどろっこしい日々に気が滅入っているからだろうか。いや、理由は分かっている――娘の癖毛が、急に酷くなったからだ。今まで髪が跳ねることなど、殆どなかったというのに。 「如良、風邪をひかないように、髪をよく乾かしてから寝なさい」  朝、娘の髪が乱れているのを見ると、それだけで心臓の上を倍音が這い回る思いがする。家の中にあの女がいる――そんな錯覚に襲われるのだ。 「如良?」  さっきリビングで漫画を読んでいたのに、返事がない。ラベルの跡が残ったまま黒酢の瓶をボウルに浮かべ、かけ流しの水を止めても、窓越しの雨音が曖昧に聞こえるばかり。私は手をふき、キッチンを出た。 「……つまんなそう」  リビングの奥、和室の方から声が聞こえるが、相手は主人ではなさそうだ。おままごとだろうか。無防備な口調に引きずられ、私は静かに和室を覗きこんだ。 「……じゃないの?」  八間の白い光の下、娘が手ぶらでカラーボックスに向かっている。ボックスの上に飾ってある物を思い出し、私は思わず声を張り上げた。
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