空の飛び方

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 さすがに、学校が離れると遥と会う機会が減った。週に数度、メッセージのやりとりはなんとか続いていた。  僕はどうしても「会いたい」と言い出せなかった。振り返れば、いつだって遥が声をかけてくれたから会えていたのだ。でなければ、幼馴染というだけであれほど頻繁に行き来するわけはなかった。  遥に、大学で気になる男でもできたのではないかと、僕は焦った。それとなく忙しいのかと訊ねると、遥から『すごく忙しい』と、返信があった。僕はそれ以上、何も訊けなくなった。 「会いたい」とも、「時間を作ってほしい」とも言えず、僕は偶然を装うためにお互いが通学に使っている駅で無駄に長居をした。  そうしているうちに、遥が男と二人で歩いているところをみかけた。相手には見覚えがあった。同じ高校のひとつ上の先輩だ。生徒会役員もしていたので、名前も知っていた。クラスの女子がカッコいいと言っていたのを聞いたこともあった。  幼馴染であること以外に、僕には遥と一緒にいられる理由がなかった。  遥は可愛い。僕は見た目はいたって平凡で、おまけに遥の方が良い大学へ進学した。長い時間一緒にいたというだけで、優しくしてきたわけでもなんでもない。  なぜ、ずっとそばにいてくれると思い込めたのだろうか。  幼馴染はあくまで幼馴染でしかなく、恋人より優先される存在ではないことに気づけずにいた。  僕は、遥を忘れるため、友達に、合コンがある時には誘ってくれと頼んだ。友達から、遥と何かあったのかと訊かれた。僕は「ただの幼馴染だから関係ない」と、強がった。  合コンに行ったからといって、好きになれる相手がすぐにみつかるわけもなく、僕は鬱々と過ごしていた。  遥からは、定期的にメッセージが届いていた。僕はいつでも当たり障りのない返信をしていた。彼氏の話題が出てこないから助かっていたけれど、惚気(のろけ)られでもしたらとても返信できなかった。  夏に一度、遥からスピッツ主催の野外ライブに誘われた。僕と二人で行くつもりだと言われた。「男と二人ででかけて問題ないのか?」と、確認すると、「私たち、幼馴染だよ。問題あるわけないでしょう」と返ってきた。  遥にとって、幼馴染は異性の扱いではないと思い知らされて、僕はひどく傷ついた。  だから、ライブへの誘いを断ったし、これからは用もなくメッセージを送ってこないでほしいと伝えた。  どうすれば、遥への想いを断ち切れるのか。大学の講義に出ている間も僕はそのことばかり考えていた。
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