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僕の誕生日に、遥がメッセンジャーバッグをくれた。いつものように直接には渡されず、僕の母親に預けられていた。色も大きさもデザインも、僕の好みをよくわかってくれていた。それがよけいに辛くて、僕はラッピングの袋に戻してそのまま押入れの奥にしまい込んだ。
遥への誕生日プレゼントは、大学近くのケーキ屋で焼き菓子のセットを買い、その場で遥の家への配送を頼んだ。
僕は自分でもどうしたいのかわからずにいた。遥が先輩とわかれたら、僕のことを見てくれるのではないかと、まだ、期待しているのかもしれなかった。
一方で、このままの距離を保ち続ければ、いつか、遥の結婚式に呼ばれてしまう可能性もあると、考えることもあった。
いつだって僕は受け身だった。いつか、きっと、遥がただの幼馴染という関係を壊してくれるはずだと、ずっと待っていた。
遥から、お菓子のお礼のメッセージが届いた。そのあとで、今年も例の誕生会に誘われた。「最後にするから、来てほしい」と言われて、絶対に行きたくない気分だったのに、断れなかった。
もう、いい加減に諦めなければいけない。だから、最後に二人で会って自分の想いに区切りをつけようと、僕はそう心に決めた。
結局、毎年恒例となっていた12月21日の誕生会は、開けなくなった。
遥が、12月にはいってすぐに、交通事故で亡くなったのだ。あまりにも突然のことで僕は受け入れられずにいた。頭の中で繰り返し嘘だと言い続けたけれど、しめやかに執りおこなわれた葬儀も、周りの悲しみようも何もかもが、「遥が死んでしまった」という事実を僕に突きつけてきた。
なぜ、素直になれなかったのだろう。
あれだけ一緒に過ごしてきて、もっと優しくすることも、楽しませることも、いくらでもできたはずだった。
目を閉じると、棺の中で眠っていた遥の顔が浮かぶ。笑顔は思い出せなくなっていた。
遥の葬儀が終わってからは、ほとんど自室から出ずに過ごしていた。泣き暮らしているわけでもない。ただひたすら、ああすればよかった、こうすればよかったと考え続けていた。
両親は、心配しながらもそっとしておいてくれた。
そんな日々は二週間ほど続き、とうとう遥と会う約束をしていた12月21日になった。
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