ガラスよ、光を透過して

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 二階にあがり、光祐は青年を部屋に通した。成人二人が揃って髪の毛からつま先までびしょ濡れなのは滑稽だった。とくに青年の方は雨で服がぴたりとからだに張り付き、寒さから唇は紫になっている。まずはからだをあたためなければと風呂を沸かし、着替えを渡して青年を放り込んだ。  とりあえず光祐も濡れた服を着替えた。シャワーの音を聞いているうちに、強盗だったらどうしよう、と今更な考えがよぎる。青年は光祐の半分もないんじゃないかと思うほど華奢で、揉み合ったら勝てそうだし、包丁の位置はわからないだろうし大丈夫かな——と考えているうちに、青年が出てきた。 「……お風呂、ありがとうございます」  だぼついた光祐のスウェットに身をつつんだ彼は、顔色がよくなっているとは言い難かった。 「コーヒーは好き?」 「……でも、長居するのは」 「服が乾くまで、ってことで」  リビングのソファを示すと、青年はためらいつつもおとなしく座った。「タバコ吸うんですか」と彼がつぶやいた。 「吸わない。どうして?」 「ここ、灰皿ないのに、さっき匂いがしたから」 「ああ、」  脱いだセーターを鼻にくっつけてみるとたしかに、居酒屋特有のけむたさが雨に濡れてより濃く匂った。 「ごめん、苦手だった? さっきまで人に会ってて」 「お友達ですか」  青年は光祐に興味があるわけではなく、瞳にひそむ闇から気をそらそうと話題を探しているようだった。電気ポットのスイッチをいれつつ、光祐もそれに乗る。 「ううん、会社のひと。今日送別会でさ」 「だれかやめるの」 「僕」  そういえば、と玄関に置きっ放しにしていたびしょぬれの紙袋から中身を救出する。高級クッキーの缶と、ネイビーのリボンがかかった細長い箱。濡れてはいるが中身は無事だろう。贈り物がならんだローテーブルを見つめて青年はつぶやく。 「クビになったわけじゃないんだ」 「うん、幸いね」
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