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本棚に追加 それは柚木がなにかに気を取られているときに、顕著に表れた。
デートで泊まったホテルの夜景に見惚れていたとき。
キスでとろとろになっているとき。
三隅に抱かれている最中。
そういう、なにかに夢中になっているときに三隅がCommandを発しても、柚木は反応しない。もしくは反応が遅れる。
それを八代に話したとき、彼は怪訝な表情を浮かべ、
「そんな話は聞いたことがない」
と言った。
それは八代が高ランクのDomだからだ、と三隅は思った。
同じDomでもランクが低ければ、SubはCommandに従わない、ということも有り得る。八代ほどの男であれば、どのSubも喜んでCommandを受け入れるのだろう。
しかし八代は首を捻って、
「というかそもそも、UsualのCommandでSubが満たされるかどうかが疑問だ。おまえの話を聞く限り、柚木は本当にSubなのか?」
と、続けた。
思ってもみない問いかけに、三隅は目を丸くした。
柚木がUsualなら良かった、と考えたことは一度や二度じゃない。だが、柚木に嘘をつく理由がない。Subと偽ることで彼にメリットがあるとは思えないからだ。
それを八代へと告げると、八代は顎を撫でながら唇の端に意地の悪い笑みを浮かべた。
「まぁそれを確かめたいなら、俺のところへ連れて来い。Commandの反応を見ればすぐにわかる」
「嫌だよ。おまえに会わせて、やっぱり本物のDomがいいとか言われたら洒落にならない。できればDomだろうがUsualだろうが、誰にも会わせずに閉じ込めておきたいぐらいなのに」
「束縛男は嫌われるぞ」
他愛のないやりとりをしつつも、八代の方でも三隅のことは気にしてくれていたようで、柚木をDomに合わせる気がないならおまえがSubに会ったらどうだ、と誘ってくれた。
SubがUsualのCommandにどう反応するのか。
本物のDomとSubのプレイはどのように行われているのか。
Dom倶楽部の秘密保持契約書への署名と引き換えに、特別にプレイルームへ立ち入る許可を八代が得てくれた。
三隅は八代同伴でなんどか倶楽部へ足を運び、数名のSubと会った。
そして、八代のお気に入りだというSub、澤良木雪とも八代立ち合いの下でプレイを行った。
澤良木は三隅のCommandには僅かも反応しなかった。
これがふつうの反応だ、と八代には言われたが、三隅にとっては澤良木のSubのランクが高いのではないかと思えた。
仮に柚木が澤良木よりもランクが下であれば、UsualのCommandに反応する可能性も、ゼロではないだろう。
三隅の持論は八代には鼻で笑い飛ばされたが、三隅にしてみれば柚木はSubだろうという認識が頭から離れなかった。
期待をしたくなかったのだ。
本当はUsualかも、と期待をして……やはりSubだということがわかったとき、自分が負うダメージは果てしないだろうから。
傷つきたくなくて、真実を確かめる勇気がなかったのだ……。

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