回しぐるま

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娘の泣き声が、どこまでも加速する和香子のネガティブにブレーキをかけた。 生後6ヶ月を迎える娘の麦は、丸々と太った健康優良児である。とは言え乳児に突然の体調不良はつきものだ。 今朝、目覚めと共に抱きかかえた麦は、まるで巨大なホッカイロのように発熱していた。慌てて駆け込んだ小児科で、突発性発疹だろうという診断がくだった。 乳幼児の多くが一度は罹患する感染症であり、安静に過ごしておけば問題ないとの医師の言葉に、心底ほっとすると同時に、どうして今日なのだろうという無念さが大波になって押し寄せた。 今日は友里恵とのランチの日だったのだ。 しかも、無理を言って実母に麦を預かってもらう約束を取り付けていた。比較的近所に住んでいるとは言え、和香子の母は仕事を持っており、気軽に娘を預けることはできない。 出産以降、大人だけでの優雅なランチなど一度もしたことがない和香子は、今日の日を大袈裟なくらいに心待ちにしていたのだった。 ただでさえ学生時代の友人は皆それぞれに忙しく、気軽に会える友人は年々減っている。
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