回しぐるま

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診察を終え、薬局に寄ってから帰宅し、一息ついたのが10時前。友里恵とのトークルームを開いてみるも、和香子発信の緑色の吹き出しが底に沈んだままだった。 そこからさらに1時間経ち、2時間経ち、ばたばたと看病をしているうちに、あっという間に3時間が過ぎて、今に至る。 友里恵からの返信は無い。 本当なら今ごろ、和香子は久しぶりの綺麗めワンピースに身を包み、友里恵と近況を報告し合いながら優雅なランチタイムを楽しんでいるはずだった。 泣いている麦を抱き上げ、慣れた手つきで左の乳首を小さな口に含ませながら、右手は、静まり返ったトークルームを懲りずに開く。 システムの不具合や電波状況のせいで、メッセージ送信が滞っているだけかも知れない。あるいは友里恵の方でも何かしらのトラブルが発生し、返信できる状況にないのかも知れない。もしくは単純に、返信したつもりになって忘れているだけなのかも。 可能性はいくらでもある。 けれども、やはり頭を駆け巡るのは、意図的に無視されているのではないか、友里恵を怒らせてしまったのではないかという不安。それはほとんど恐怖に近い感情だった。 職を手放したことにより世界がぐんと狭まったように感じている今の和香子とって、旧友との縁が切れることは、さらに生きる世界を狭めることのように思えた。
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