回しぐるま

7/9
前へ
/9ページ
次へ
率直に言えば、悲しかった。腹が立った。 乳児連れに優しいお店を何時間もかけてリサーチし、率先して予約しても、貴重な有給を消費しても、子供の体調ひとつで有無を言わさず予定を覆してくる母親たちに。 その母親たちの目に、自分がまったく映ってないように見えることに。 ほかほかの赤ん坊を抱えている母親たちが直視できないくらい眩しくて、自分とはまるで違う世界を生きているように見えた。 寂しくて、妬ましかった。 そんな自分が後ろめたくて、どうにか抑えつけようとするけれど、抑えつけようとすればするほど、和香子の感情は暴れるのだった。 今ならわかる。 育児は泥くさいことと生ぐさいことの連続で、決してきらきらと眩しい瞬間ばかりではないということを。 彼女たちの葛藤や孤独を。 もちろん子育てだって人それぞれなのだから、あの頃より少しはわかる、という程度ではあるけれど。 どちらの立場も経験した和香子は、だからと言って今、どうしたら良いのかなんてわかるはずもなく、ただ打ちひしがれるしかないのだった。 その時、LINEの通知音と共に画面上に友里恵の名が浮かびあがった。 期待と不安に高鳴る胸を押さえて、和香子は恐る恐るトークルームを開いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加