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「マァちゃん寒くない?」
母の声がしたような気がする。静まり返った部屋に読みかけの新聞紙が無造作においてある。父の読んだ新聞紙。亡くなる二日前の物だ。
「寒い」
私は口に出して言っていた。もう誰も住まないこの家は寒々しくて、泣きたくなった。
「ダルマストーブを点けましょう」
母は言うが、ダルマストーブはエラー点滅中で無理なのだ。つけられない。出来ないものは出来ない。
「マァちゃん」
「うん」
「ストーブ点けましょう」
この家はもはや時が止まっているのだ。カーテンも壁紙も新聞紙も、水に浸したマグカップも。そして母も。
「点けられないよ」
膝小僧が出た私がマッチ箱を手にし、半ベソをかいている。あらあらと母が私の手から赤い小さなマッチ箱をとって笑顔で言う。
「大丈夫。点けられるわよ。マァちゃん」
私の頬を涙が伝う。
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