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みんなはいいなぁ。
ぼくもガラス越しじゃなくって雅さんを眺めていたい。
だけどすぐ隣にいる雅さんをずっと見続けてしまうとおかしな奴だと思われる。
なんて、視線を送ってくるみんなを羨ましがっていると……。
グイッ。
「へ? うわわっ!!」
突然ぼくの体が後ろへ引っ張られた。
抵抗する間もなくぼふんと柔らかい音を立てて雅さんの胸の中へダイブしたんだ。
――えっ? なに?
何が起こったの?
何事かと視線を上げていくと、そこにはぼくを見下ろす涼やかな双眸があったんだ。
交わる視線に、ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。
視線の行き場に困って前を見たその瞬間、勢いよく走る自動車が鼻先をかすめた。
それでようやく信号が赤になっていたことを知ったんだ。
「俺が隣にいるっていうのに、サクラくんは何を考えていたのかな?」
雅さんはとても紳士だ。
ちゃんと前を見なさいとか、そういうふうに怒ったりなんかしない。
ぼくが上の空だったことを責める。
だけどこの責め方はまるで、ヤキモチを妬かれているみたいだ……。
――ああ、違う違う。勘違いしちゃいけない。
ヤキモチなんて有り得ない。
だって、雅さんには恋人が……好きな人がいるんだから。
今はちょっとしたスレ違いでぼくと一緒に居るだけ。
それだけだから……。
それなのに、こうして腕の中に包まれていると、なんだか恋人同士になった気分になる。
有り得ないのに……。
「ごめんなさい……」
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