ポケットから

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ポケットから

 こんな会社に勤務しているのが信じられない。あの男と結婚するまでは大企業に勤めていた。結婚を機に寿退社してしまったのだ。その後、あの男の子供を産み、子供はかわいかったので大事に育ててきたが、あの男とは反りが合わなくなってきた。なにかあると、すぐに否定してくるのが耐えられなかった。非難されるし説教される。  離婚して、子供を引き取り、久しぶりに社会復帰するにあたって、まともな会社に入れなかった。こんな月収16万の会社にしか再就職できないとは、世の中厳しいとしか言いようがない。  ため息を吐きながら、会社のトイレで鏡を見つめていると、改めて自分はなんて美しいんだろうと思う。まだ三十代前半。まだまだいける。そのとき、ふと目尻に皺を見つけた。右頬にうっすらとシミもあった。厳しい世の中、まず顔が重要なのに。綺麗な顔さえあれば、そのうちきっと、また大企業に再就職できるし、高収入の男に見初められることも可能だ。  急いで制服のポケットから小瓶を取り出し、錠剤を二十錠ほどザアッと左手に出すと、水道水で喉に流し込んだ。そのあと反対のポケットからローラーを取り出し、目尻含む顔面中の皴をそれでゴロゴロと一時間ほど伸ばした。すると鏡に映っている顔は若さを取り戻し綺麗になった。  三十分おきに、これを繰り返すのだから、非常に難解な作業だ。
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