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俺の頬をつっ、と伝う涙を見て、老いた女のひとりがポツリと呟く。
「……私たちは、今宵をもって、マルクを解放しよう。彼を人間として蘇らせるのだ。そう、そうしてこそ、あの夜、彼らに殺された私たちも、人として再び生きることがはじめて叶うのだから……」
しばらくの後、仄かな灯のなか、女のひとりが横たわる俺に、恐る恐る、手を差し伸べた。それに促されるように、やがて、次々と女たちがおのおのの腕を伸ばしてくる。
ヘレナの慟哭はなおも止まない。
それを耳にしながらも、俺は頼りなく震える掌をせいいっぱい広げて、女たちの手をひとつひとつ、そっと掴む。
窓から差し込む月のひかりが、どこまでも静かに、そんな俺とヘレナと女たちを柔らかく包み込み、穏やかに照らす。
俺をあれほどに嬲った女たちの手の感触は、どれもが、あたたかかった。
心に染みるほどに、あたたかかった。
その熱を感じた時こそが、俺の、いや、俺たちの、新しい生が始まった瞬間だった。
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