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「思い出せないようだね、なら教えてやろうか」
女のひとりが俺に唾を吐きかけながら語を放った。
「あんたたち、帝国の犬は、見事に私たちの村を焼き払ったよ。それだけでなく、完膚なきまでに、応戦した男どもを殺し、子どもたちを八つ裂きにし、そして女たちを辱めた。そりゃあ、見事なほどにね」
その言に、俺を囲んだ女たちは一斉に泣き出した。それが、自らが受けた恥辱を思い出してのことだと、俺が理解するまでには、数瞬の間が必要だった。
「だがな、我々の国とてお前たちの襲撃に対して無策ではなかったのだよ。お前たちの動きを察知して王都から派遣されていた我が軍は、お前たちの狼藉には数時間遅れてはしまったが、村に辿り着いた。そして、お前さんたち帝国の犬どもを返り討ちにしたのさ、それこそ、それもまた完膚なきまでにな」
俺は呻いた。
「では、俺の仲間たちは……」
「明朝、すぐに我が軍の手によって処刑されたよ。今も村外れのツリバナの樹に、全員、首を括られて吊るされているさ。風にゆらり、ゆらり、揺られて、それはそれは愉快な光景だよ」
女たちはそこで泣き止むと、一転して、腹を抱えて笑い転げる。俺はその嬌声のなか、乾ききった唇を噛んだ。まさか、俺が意識を失っている間に、仲間たちがそんなことになっていたとは。そして同時に俺の胸に疑問が激しく湧き上がる。
「……なら、なぜ、なぜ、俺は生きている?! なぜ、生きてお前たちにこうして囚われているんだ?!」
「それが間抜けな話でな」
ひとしきり笑い転げた様子の女のひとりが、表情をまたも厳しくして俺に向き直る。
「処刑を終えて軍が引き上げたあとのことだ。お前さんが村境の森のなかで倒れているのを、我らのひとりが見つけてな。それで、まだ息があったお前さんを、拾ってきたのだよ」
「なんだと……」
「おそらく、お前は我らの村を襲ってる途中に我が軍の襲来に気づき、手負いながらも森の中に逃げ込んで、そこで意識を失い、生きながらえたのだろうよ。どこまでも運が良く、また卑怯な奴だて」
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