7人が本棚に入れています
本棚に追加
3 移りゆく日常
さらに数年が経過した。
俺の日々は、相変わらずだった。
だが、村の女の態度は、少しずつ、少しずつだが、寸分の時間をも漏らさず、自分たちの村のための労働へと身を捧げる俺に対し、柔和になりつつあった。というのも、村には新しい男たちが入ってきて、その生活には多少なりともだが余裕が生まれつつあり、また、それとともに、俺たちの襲撃という村の大惨事は、ゆっくりと過去のものになりつつあったのである。
いつまでも過去に囚われているべきではない、といった意見が、新しく村に入った男たちを中心に広がりつつあるのを、当の俺も肌で感じ取っていた。それに合わせるように、いつしか、俺の足輪は外されていた。だが、それは俺が長年の虐待で弱りきっていて、この村から逃亡する恐れが無いという理由からだったが。
だが、ヘレナの苛烈さは相変わらずだった。俺に対する暴行は止むことなく、時に村の男たち、また、ときには女たちに諌められることもあるほどだった。
ことに、彼女が激怒したのは、ヘレナの6歳になる息子アレクが、俺に懐いてしまったことだった。
「マルクおじちゃん! 森にチイラの木の実を取りに行くの、いっしょに行こうよ!」
今日もアレンは、母の目を盗んで俺のもとを訪れる。俺は薪を割る手を止めると、白いものが大半を覆って久しい髪をかき回しながら、ため息をつく。
「俺を誘っちゃ駄目だと、母さんからいわれているだろう? アレク」
「そうだけど、僕ひとりじゃ、チイラの木は登れないし」
すると俺と一緒に薪を割っていた、村の男が苦笑混じりに言った。
「いいじゃねぇか、行ってやれよ、マルク。ヘレナには俺がごまかしておいてやるよ」
「……いいのか?」
「あぁ、マルク。あんたもたまには、息抜きが必要だろうしな」
「わーい、マルク、行こう行こう!」
アレクが喜びのあまり俺の手を掴んで振りまわす。俺はヘレナにばれた時の仕打ちを想像して、内心、怯えながらも、アレクの手を取り、森の方向へとゆっくり身を翻した。
最初のコメントを投稿しよう!