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第二幕
村に疫病みがハヤったときは、穢れを知らない美しい生娘を1人、『花しず女』として地主神に捧げるのが、その祭りで。
世俗の娘を「神のもとに捧げる」とは、すなわち、世俗での「命を断ち切る」ことに他ならず。
「早い話が、純朴な幼い少女が、村人たちによってたかって殺害されたってことだろ。バカげた迷信のせいで」
この限界集落の診療所につとめるたった1人の医師である中年男性は、いかにも数々の無医村で剛腕をふるってきたキャリアの持ち主らしい苦味ばしったコワモテに渋い表情を浮かべて言った。
2か月あまり前、村のはずれにある"花しず女"所縁の廃寺で、かつて御神木と崇められていた桜の老木に雷が落ちた。
それ以来、村にタチの悪いハヤリ風邪が流行しはじめ、高齢者の命をタテツヅケに何人も奪った。
「なーに、とっくに棺桶に片足を突っ込んだような年寄りばかりだったさ。全員、基礎疾患もあった」
厚手の作務衣に身を包んだ中年医師は、聞いている方が冷や汗をかきそうな不謹慎なセリフを豪胆に言い放ちながら、地酒の一升瓶をそのまま向かい側の客人のコップに注ごうとした。
診療所に併設している医師の居宅の居間で。
10畳の和室に木製の座卓が置かれ、今朝採れたばかりの山菜や、近くの漁場で仕入れた魚介なんかが豪快に放り込まれた鍋が、卓上コンロの上でグツグツと煮えている。
自前の浴衣を着て、端然と正座をしている陽向は、
「ボクは未成年ですから」
と、目の前のコップに手のひらでフタをすると、隣でアグラをかくジャージ姿の側近に向かって言った。
「星尾さんは、遠慮なくどうぞ。……強いんでしょ?」
星尾は、その、とってつけたような語尾に少し戸惑った。
2年ほど前まで東京のホストクラブで働いて荒い日常をいとなんでいた経歴を、暗に揶揄されているのかと。
だが、8つも年下の17才の少年にそんな邪推をする己の卑屈さにとっさに嫌悪を覚えて、吹っ切るようにイキオイよくコップを前に差し出した。
「じゃあ、遠慮なく。いただきます」
まあ、もともと、キライではないもので。
「神木のタタリも陰陽術も、まるで信じちゃいないが。オハライとやらで村人たちの気がすむんなら、いくらでも好きにやってくれ。協力も惜しまない」
コップに透明な酒をアフレそうなほどに注いで、医師は、ナゲヤリに言い捨てた。
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