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第三幕
翌日もカラリと晴れたいい日だった。
昼過ぎに、くだんの荒れ寺の庭に、白木を組み立ててあつらえた簡易な祭壇と、その上に同じく白木の柩が置かれた。
『榛名 月御門神社』の祭守たる陽向の指示により、白い正絹を敷きつめられた柩の中には、落雷によって倒壊した桜の老木の、焼け残った根元が寝かせられた。
御神木の根元を人形のごとく見立てて、真新しい白無垢を着付けたばかりか、胸元には魔除けの懐剣を模した短い木剣さえ絹の袋に麗々しく入れてあてがわせたものである。
昨日とはうって変わって、パリッとした狩衣と差袴を引きしまった身にまとい、頭には烏帽子、手には杓、足には浅沓で神職の正装を凛々しく整えた陽向は、いっせいに居並んだ村人たちの畏怖と疑念の入り混じった視線を背中に浴びながら、柩の前に立った。
そして、「禊祓詞」を朝早くに筆でしたためておいた奉書紙を懐から取り出し、涼やかに詠みあげる。
「高天原に神留坐す、
神漏岐・神漏美の命以て
皇親神伊邪那岐の岐命
筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原に、
禊祓い給う時に生坐せる
祓戸の大神等
諸々の禍事罪穢を
祓い給え清め給えと申す事の由を
天つ神・地つ神・八百万神等共に
天の斑駒の耳振立てて間食せと
畏み畏み白す……」
芥子色の袴姿でそばに控えていた星尾は、詠み終えた奉書紙を受け取り柩の中に納める。
祭壇の手前に設置した献花台には、村人たちに摘み取っておいてもらった色とりどりの庭の花や野山の花が、あふれんばかりに積んであった。
星尾は、皆に向かって、それらの花を持ち寄り、柩の中にある桜の木の人形を飾ってやるように呼びかけた。
村人たちは、にわかにザワザワと活気づき、われ先にと献花台に集まった。
その間に、祭守の陽向は、経机に置いていた大きな笹の葉を左手に取り、
「オン・センダラ・ハラバヤ・ソワカ」
語りかけるように口ずさむと、儀式の護符とすべく「フッ」と短く息を吹きかけ、柩の中の桜木の枕元に置いた。
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