髪を切る

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 月子さまならば若奥様になられても、使用人に厳しく当たることはないでしょう。お二人が結婚されたら、美しい若夫婦のお姿を間近で拝見できるのです。恐れ多くも雲の上の方々のお傍近くに寄れるとは、使用人という職業の役得ではないでしょうか。辛いこともありますが、郷里を出て帝都に職を求めた決断は間違っていませんでした。 「優さま、いらっしゃいますか」  月子さまがお見えになったことを伝えようと優さまの部屋のドアを叩きましたが、返事がありません。こちらの部屋にいらっしゃらないようです。……ならば、あそこかしら。一つだけ、私にも居場所の心当たりがございました。    優さまの行き先として目星を付けたのは天蔵家の図書室です。お屋敷とつながる別棟にございます。 旦那様は大の古書愛好家として知られており、そのため図書室もたいそう立派なものなのだとお聞きしています。舶来の書物を含め、希少本の宝庫としてその筋の方々には名を知られているのだとか。もちろん、入って一年もたたない新参者には掃除のときでさえも立ち入ることを許されるわけもなく、私自身入るのは初めてでした。
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