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本棚に並ぶ本。その中で一番ほっそりとした背表紙に人差し指をかけて、抜き取りました。
赤い色をした表紙。題名は読めません。おそらくみみずがのたくったような曲線が「それ」を示しているのでしょう。
震える指先で一頁、また一頁とめくるうち、私は夢中で読み耽ってしまったのです。文字は読めません。でも絵がありました。外国の方が出てきます。
女性が女の子に本を読み聞かせています。服装からすれば、欧羅巴が舞台なのでしょう。不思議なことに白い兎は洋装していて、二本足で立っています。女の子はそれについていって、別の国に行ってしまう。本は綺麗に装丁されているようですが、絵も文字もそのまま手書きで書いてあるようで、印刷されているものではありませんでした。滑稽ですが温かみのある線です。
最後の頁までめくり終わると名残惜しい気持ちで本を閉じます。
どんなお話しなのでしょうか。文字が読めたらもっと楽しめるのに。
けれど、私のような者には土台無理な話です。実家が裕福でもなく、無学で取柄のない女には一生縁のないもの。諦めるのが普通なのでしょう。しかし、胸の奥にぐずぐずとした気持ちがあるのもたしかで、気が付けば唇をかみしめておりました。
その時でした。本を持っていた親指あたりがふっと翳ったような気がして、右を見ます。
「あっ」
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