髪を切る

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 本を、取り落としそうになりました。驚きすぎて。全身から血の気が引きました。  本棚の端の方に寄りかかるようにして立っていたのは優さまでした。  仕立ての良いシャツに、ブラウンのズボンを履かれています。神経質そうな目に、銀縁眼鏡をかけています。この方はものすごく眼光の鋭い方で、この方に見られると、鷹に狙われた鼠になった気にさせられます。  優さまは私のところへ歩いてこられると、ひょいと本を抜き取りました。 「A Christmas Gift to Dear Child in memory of a SummerDay……訳すと、『夏の日の思い出を親愛なる子への生誕祭の贈り物に』、というところだな」  とても不機嫌な声です。不機嫌に違いありません。私は初対面からこの方を不機嫌にさせてばかりなのです。今もお屋敷の物を無断で触った不届き者を苛む目で私を見ていらっしゃるのです。首を竦めて縮こまる私に、優さまは言い放ちました。 「ちなみに我が家に存在する数多の書物の中でもかなり希少で今後価値が高くなるらしい。お前の給金では返しきれないだろう、残念だ」  ウッ、と呻き声が出そうになりました。私の行った蛮行は申し開きのしようがないのです。平謝りするしかないのです。 「も、申し訳ありません! お許しください!」
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