髪を切る

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髪を切る

 (すぐる)さまには美しい婚約者がいらっしゃる。先日、耳にいたしましたときにはどんな方なのだろうと思ったものですが、相手があの月子(つきこ)さまということで、納得してしまいました。道理で最近、よく出入りされているのだと。  財閥天蔵家の長男の優さま。荻野(おぎの)侯爵家の次女の月子さま。優さまは帝国大学を出た秀才で、天蔵家の跡継ぎとしてこの上もない方ですし、月子さまはおしとやかでお優しい方です。華族のお嬢様でもありますし、女学校でも下級生に慕われているのだとか。お二人を並べてみれば、お内裏(だいり)さまとお(ひな)様のように完璧なお二人です。    唯一、心配なところを申し上げるならば月子さまの体調のことでしょうか。どうやらお身体が強くないようです。  天蔵のお屋敷にいらっしゃったときには時々お見かけするのですが、その体の細さや抜けるような色の白さには心もとなさを感じてしまいます。立ち姿は百合のよう。まるですぐに手折られてしまう薄幸の花を思わせます。それにとてもきれいな黒い髪をしてらっしゃって。あぁ、おきれいだ、と私も女ながらにうっとりと眺めてしまうのです。  月子さまの「みやさん」とお呼びになる声まで美しく、天女もかくやという清らかさがあるのです。
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