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尾行と言っても学校から家までのたかだか20分の道のりだ。 それで彼の人となりがわかるわけもないし、なぜ2人の女子生徒が彼を好きなのかは直接彼女たちに聞けばいいのかもしれない。 でもどうしてか柿崎は気になった。 ーー喜多見という男が。 どんなふうに歩くんだろう。 どうやってずり落ちたランドセルのベルトを直すんだろう。 どういう風に信号を待って、どんな顔で横断歩道を渡るんだろう。 人に興味を持つのは初めてだった。 前方を猫が横切ろうが、後ろから自転車が追い越そうが、喜多見は動じずただ前だけ見て歩いていた。 ーーふふ。おもれー。 なんで面白いのかわからなかった。 ただその右、左、右、左の単純な歩行動作が面白かった。 すると、今まで視線を変えなかった喜多見が、ふと左側を見つめた。 「………?」 その視線を追うと、ちょうど道路の反対側に、上級生の集団が歩いていた。 一番前を歩くのは小柄な生徒で、その後ろにぴったりついて歩いている3人でよく見えない。 しかしその3人が小柄な生徒に何かしてるのは斜め後ろからでもわかった。 「ほら、さっさと歩けよカスー!」 「ランドセルは自分たちで持っててやってんだからさー。習字道具くらい持てよなー」 会話からして、その小柄な生徒が3人+自分の分の習字道具を持たされているらしい。 まあ、確かに重いが、イジメとしてはそこまで悪質でもない。 柿崎はたちまち興味を無くし、視線を喜多見に戻した。 「――あれ?」 しかし喜多見はそこにはいなかった。 「――なんだてめえ!!」 左前方から声がした。 3人の上級生の前。 小柄な生徒の隣に喜多見は立っていた。
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